2020.4.25

中小企業のテレワーク導入を考える経営者のリアル意識#01【後編】

日本企業のメンバーシップ型雇用はテレワークになじみにくい

株式会社アトリウム 代表取締役会長 竹井 英久

インタビュー・テキスト:椎原よしき 撮影:永井浩 編集:NRMedia編集部

中小企業のテレワーク導入を考える経営者のリアル意識#01【後編】

このインタビューは、日本テレワーク協会が 配信している記事 です。

日本テレワーク協会

メンバーシップを保ったままのテレワークでは社員相互の公平感や納得感を得ることは難しい

――――業務内容以外にも、メンバーシップ型の雇用を維持しながらテレワークを実現するにあたって、ハードルになると考えられる点はあるでしょうか。

竹井 社員相互の公平感や納得感を担保することが難しいでしょう。単純化していうと、ある人は通勤して出社しなければならない一方で、別の人がテレワークで働いているとき、両者が同じ基準での給与で、出社している人が納得できるのかということですね。それは難しいんじゃないかと私は思います。あるいは昇進に際して、いつも会社に来て他の社員とコミュニケーションを取っている人と、テレワークだけの人がいた場合、両者を対等にマネージャー候補として扱えるのか、同じように昇進させることができるのかということもあるでしょう。素朴な実感として、テレワークだけをしてきた人がチームをマネジメントできるのかと問われれば、それは難しそうだと感じませんか?

――たしかにおっしゃる通りかもしれません。組織では評価制度設計のような話も話題になりますね。

竹井 社長や管理職も含めて全員が完全にテレワークで出社しないというのなら公平かもしれませんが、そのときに会社であることの意味とはなんでしょうか?

それはちょっと極端だとしても、仕事をパッケージ化してテレワークで作業してもらい、パッケージ単位で納品される成果に対して報酬を支払うのであれば、その仕事をやってもらう人が社員である必要があるのか?という疑問は、当然生じてきます。会社からすると、外注会社やクラウドのプラットフォームを通じて個人事業主に発注してもいいじゃないか、そのほうが安いんじゃないか、と。

――テレワーク化と業務の外注化の距離は近く、置き換え可能性が高いということですね。その流れを推し進めるような形として、社員を個人事業主化して、雇用契約を業務請負契約に切り替えて仕事をしてもらうという会社も実例として出てきているようです。

竹井 そういったやり方は、たとえ法律的にはOKだとしても、働く人にとっては、どうでしょう?ある程度自由な働き方はできるのかもしれませんが、反面で厳しい世界になると思いませんか。会社では、みんながみんないつも与えられた仕事を一生懸命やっているわけではありませんよね。そういうときに、上司から「お前やってないじゃないか」って叱られるけれども、サポートもしてもらえる。チームのメンバーであるということで、ある意味では楽なんです。

――仕事がすごくできる人にとっては個人事業主化は歓迎かもしれませんが、世の中そういう人ばかりではないですよね。それに、だれでも病気になったりする可能性もあります。

竹井 個人事業主になって、たとえばこれまで社員として伝票を1000枚作成していたところを、2000枚作成して倍の給料がもらえるかもしれない。一方、体の調子が悪くて500枚しかできなかったら、じゃあ給料は半分ですねといわれても仕方ない。とても厳しい世界です。

「組織には有能な人が2割、普通の人が6割、できない人が2割いるのだけれど、できない2割の人を排除しても、残りの全体からまた2割ができない人になる」って、よく言われる話がありますよね。だれでも病気になったり、調子が悪いときがあったりするということを考えると、会社ができない2割の人を抱えておく余裕を持つことは、大切なんじゃないかな。そういう余裕があるからこそ、社員は安心して働けるでしょう。

もちろんそれが行きすぎると問題ですし、また、管理職の場合は、できない人が就くと悪影響が大きいので、それはダメですが。

中小企業のテレワーク導入を考える経営者のリアル意識#01【後編】

テレワークや働き方改革で今までより「楽」に働けるようになると考えるのはちょっと違うのではないか

――政府の働き方改革では「同一労働、同一賃金」として、正規社員でも非正規社員でも同じ仕事なら同じ給与にすることを目指すとされています。

竹井 それも、本来の発想としては、正規社員と同じ仕事をしているのに非正規社員の給料が低いのはかわいそうじゃないか、正規社員並みの給料を支払わせるようにしよう、ということだと思います。しかし、どっちに寄せられるかはわかりませんよね。正規社員が「あなたの仕事は非正規社員でもできるものだから、『同一労働、同一賃金』で、非正規社員と同じ給与にします」といわれる可能性もあるわけです。どちらに流れるかはわかりません。

――「働き方改革」によって、労働者にとって厳しい状況がもたらされる側面もあるということですね。

竹井 最初にお話ししたように、どういうところに着目するかによって見え方が大きく異なってくるのでしょう。テレワークにしろ、同一労働、同一賃金にしろ、それによって今までより「楽」に働けるという見方をする人が多いように思えるのですが、私は、それはちょっと違うと思うんです。お話ししてきたように、むしろ厳しくなる面のほうが多いんじゃないかと。

大きな背景としては、グローバリズムがあって、たとえばiPhoneを作るのに、日本でも中国でもベトナムでも、どこで作ってもいいんです。すると、もっとも賃金の安いベトナムに他の国も合わせてください、といわれても仕方ないわけです。多くの産業で、このグローバル化が進んでいます。

さらに、日本は基本的に人が余っている社会だったので、きめ細やかな対応をする余裕がありましたが、これからはそうはいきません。

「だから、生産性を向上させましょう」といわれるのですが、テレワークも含めた働き方改革それ自体が生産性を向上させるわけではないですよね。

「働き方改革だから定時に帰りなさい。でも今まで通りの仕事をしなさい」っていわれることは、要は残業代が出なくなっただけじゃないかと、一部の社員は気付いていますよ。そうすると逆に、会社がそんなことをいうならと、自分の利益だけを最大化しようと考える社員が増えるかもしれません。

――今まで通りのメンバーシップ型雇用関係だけでは、大きな構造変化に対応できなくなり、かといって、ジョブ型雇用や個人事業主として働く厳しさをすべての人が受け入れられるわけではない…。ジレンマがあるように思えます。

竹井 そういった議論で、どちらかしか認めない、二者択一の選択にしてしまうのはあまり好きじゃないですね。社会全体として認められる、会社も社員もそこそこ納得できるような落とし所を見つけていく努力をするほうがいいのではないでしょうか。
ただ、その際には労働法の規制なども、あわせて見直していかなければならないでしょう。

現在は、中途採用でも会社側の採用活動はいろいろな規制を受けます。聞いてはいけないことなども多いですよね。その一方で、採用後には厳しい解雇規制があります。コンプライアンスをきっちりしている会社ほど、中途人材採用が、経営上のリスクを取ることにつながってしまうのが現状です。中途人材の流動化がなかなか進まないことや転職のミスマッチが多いこと、さらに前向きな

ジョブ型の雇用関係の構築が難しいことの理由の1つには、法的規制の存在があると思います。

――雇用や解雇に関する更なる規制の緩和が必要だということでしょうか。

竹井 必ずしもそれだけはないでしょうが、時代に合わせたアップデートができないとは感じます。労働関係の法律は、日本が今よりずっと貧しかった昭和20年代から30年代に、弱い立場の人を守る主旨で作成された部分が多くあります。その規制があったことは、日本型社会主義といわれるような、貧富の格差が比較的少なくて、多くの国民がある程度豊かに暮らせる社会の実現に寄与してきました。それ自体は高く評価できることだと思っています。

しかし、時代が変化するにつれて、現状にそぐわない部分も増えてきました。それなのに、法律の抜本的なアップデートがなかなかできないことが問題です。それは労働法だけのことではなくて、たとえば私たちの業界でいうと宅建業法などは、マンションというものが存在しなかった時代に作られた法律ですが、いまだに抜本的に変えられていないので、大きな問題だと思います。

――社会の構造も、働く人の意識も大きく変わっていく中で、これからの中小企業の経営者は、どのようなことを心がけてマネジメントをしていくべきでしょうか。

竹井 経営者が行うべきマネジメントの要は、会社に社員の居場所を作ることだと思っています。いい換えると、社員全員に、自分が会社というチームの役に立っていると実感してもらえるようにすることです。そのためには、当然ながらやりがいのある仕事を増やしていかなければなりません。また、社員が上げた成果に報いるポストを増やすため、会社を成長させていく必要もあるでしょう。それらすべてが経営者の責任となる仕事です。

さらに、社員1人1人の様子をいつもよく観察し、調子が悪そうな人がいれば話しかける、手を抜いている人がいれば叱ってやるといった、純粋な業務指示以外のサポート部分も絶対に欠かせません。それも、ちょっと挨拶をするといった程度ではなくて、1人1人の人生に真剣に向き合うつもりで取り組むことが必要です。それをできることが、社員数が少ない中小企業ならではの良さでしょう。

日本的というか、ちょっと情緒的に過ぎるのかも知れませんが、居場所が与えられて、自分の力を活かせる仕事ができて、チームの一員としてのコミュニケーションがあること。それが社員の定着率を高めて結果に結びつく最高のマネジメントだと信じています。

――ありがとうございました。

このインタビューは、日本テレワーク協会が 配信している記事 です。

日本テレワーク協会


企画背景

「テレワークや働き方改革に対して、中小企業経営者たちは、正直なところどのように考えているのだろうか? その“リアルな意識”を知りたい」というのが、本連載企画の発端です。記念すべき第1回にご登場いただいた竹井会長のお話は、基本的にテレワーク導入に懐疑的な立場からのものでした。しかしその明快な論理とひたむきな熱情は、長年中小企業の陣頭で指揮をとり大きな危機も乗り越えてきた経営者ならではの“リアル意識”として、日頃はテレワーク導入推進の立場からのご意見をいただくことが多い私たちにとっても、とても刺激的なものでした。本連載ではこれから、テレワークに対してさまざまな意見や温度差を持つ経営者の皆様にご登場いただき、その“リアルな意識”をお届けしていく予定です。どうか楽しみにお待ちください。

企画背景

株式会社アトリウム 代表取締役会長

プロフィール

竹井 英久

株式会社アトリウム 代表取締役会長

東京都出身。1973年慶應義塾大学経済学部卒業、三井不動産入社。三井不動産ビルマネジメント代表取締役社長や、三井不動産リアルティ代表取締役社長、同社代表取締役会長を経て現職。


発行

一般社団法人日本テレワーク協会 中小企業市場テレワーク部会

企画・聞き手 部会長

小国 幸司(ネクストリード株式会社 代表取締役)

聞き手・執筆

椎原 よしき / 撮影 永井 浩

編集・デザイン

福本 裕之(CoCoII)

協力

中小企業テレワーク部会コアメンバー

中小企業テレワーク部会 アドバイザー

三浦 拓馬(株式会社いわきテレワークセンター)

富士通コミュニケーションサービス株式会社

下田 しおん

株式会社レコモット

大橋 清次

株式会社アトリウム

宮崎 あおな

株式会社イマクリエ

二上 香純

特定非営利活動法人チルドリン徳島

角 香里

コニカミノルタジャパン株式会社

牧野 陽一

SB C&S 株式会社

邑井 一郎

一般社団法人日本テレワーク協会

滝沢 靖子