2020.4.25

中小企業のテレワーク導入を考える経営者のリアル意識#01【前編】

日本企業のメンバーシップ型雇用はテレワークになじみにくい

株式会社アトリウム 代表取締役会長 竹井 英久

インタビュー・テキスト:椎原よしき 撮影:永井浩 編集:NRMedia編集部

中小企業のテレワーク導入を考える経営者のリアル意識#01【前編】

このインタビューは、日本テレワーク協会が 配信している記事 です。

日本テレワーク協会

さまざまな事業を展開によりリスク分散を意識した経営をしてきたがそろそろ転換を図るタイミング

――まず、御社の概要について教えてください。

竹井 弊社はクレディセゾンが100パーセント出資する子会社で、不動産業を営んでいます。主な事業内容は、収益不動産の開発・運用、住宅向け不動産の開発・販売、オペレーショナルアセットの運用などです。いまの会社になってからは8期目で、東京本社のほかに、大阪、仙台、名古屋、福岡に支店があり、従業員数は250名ほどです。

もともとは、競売物件の取扱や債権回収などサービサー業務を主とする会社として成長してきました。しかし、リーマンショック後の不動産不況で会社の状態が非常に悪くなり、親会社のクレディセゾンの意向もあって旧会社の債権債務関係を整理し、新生会社として新しく設立されたのが現在の株式会社アトリウムです。

――箱貸しによる美容院やギャラリーの運用、ホテル事業など、多様でユニークな業務も展開なさっています。

竹井 やはり一度失敗を経験しているので、なるべく事業のリスク分散を図りたいという考え方を基底として経営にあたってきました。そのためリノベーション事業にも力を入れてきましたし、箱貸しのような美容院やギャラリーの運営、ホテル営などの新規事業に取り組んできたのです。社員の主体性を重視していろいろな新しい事業にチャレンジしてもらっており、その面では少しユニークな会社だと感じられるかもしれません。

ようやく会社の足腰もしっかりしてきましたし、いま足元ではコロナショックをきっかけに景気も曲がり角を迎えそうだということもあります。そろそろ転換を図るタイミングだと捉え、もう一度、都市型の収益物件の開発・販売分野に経営資源を集中していこうと考えているのが現状です。

――社員さんは約250名いらっしゃるとのことですが、旧会社時代から働いていらっしゃる方が多いのでしょうか。

竹井 大半はそうです。あとは、辞めた人間がいれば中途採用で補充をするという形でしばらくはやってきました。しかし、だいぶ事業が強化されてきた一昨年(2018年)からは新卒採用を再開し、10名弱ほどですが、毎年の採用をしています。

――いま多くの企業が、新卒採用にとても苦労しています。また、長期的な労働力人口減少から、構造的な人手不足が今後も続くのではないかという見通しもあります。その中で、御社が新卒者に対してアピールしているのはどういう点なのでしょうか。

竹井 1つには上場企業の完全子会社であることから、組織や制度の面で、上場企業に準じたコンプライアンスや働き方が守られているというところでしょうか。オーナー社長やその一族で経営している会社だと、強力なリーダーシップを発揮して、事業がうまくいくときは非常に大きく会社が伸びるという突破力はあるのですが、反面で、コンプライアンスやさまざまな社内体制の整備といった面が、後回しにされてしまうケースが多く見受けられます。弊社は親会社であるクレディセゾンに準じる制度でやっていますので、そういう面はかなりしっかりしており、そこを魅力に感じてもらえることが多いようです。

また、事業面においては、先にも申しました通り、ちょっと変わった事業を手広くやってきて、いろいろなことにチャレンジできます。ただ、事業については少し集中を図ろうと考えていますので、そこは今後変わっていくかもしれませんが。

中小企業のテレワーク導入を考える経営者のリアル意識#01【前編】

テレワークで、新しい働き方の可能性が社会に広がるのはとても素敵なこと

――政府が掲げる「働き方改革」では多様な働き方が推奨され、中でも最近は、テレワークに高い注目が集まっています。会長はテレワークについてどのようにお考えでしょうか。

竹井 最初に確認しておきたいのは、「テレワーク」という言葉でイメージする内実、あるいは目指す方向性が、人によって大きく異なるということです。

たとえば、今回の新型コロナウィルス騒動で、緊急避難的に在宅勤務を導入している企業があります。また、介護や育児などで、長時間家にいなければならないという労働者が、必要がある間だけ、一時的に在宅で仕事をすることがあるでしょう。そういうものはもちろんやったほうがいいと思います。弊社でも、仕事と介護の両立支援のための取り組みを推進しており、東京都中小企業雇用環境整備推進事業の「介護と仕事の両立推進事業」に応募して、選出されています。

一方では、好きな場所で時間に縛られずに仕事をしてクリエイティビティを発揮できる働き方としてテレワークがイメージされることもよくあります。さまざまな自己実現をしながら高い報酬を得られるチャンスが増えたと喜んでいる人も多いでしょう。私も、社会全体でそのような可能性が広がること自体はとても素敵なことだと思います。

ただ、いま会社で働いているすべての人がそういった“アーティスト型”あるいは“職人型”とでも呼べるような形でのテレワークになじめるかといえば、それは難しいのではないかと感じています。

中小企業のテレワーク導入を考える経営者のリアル意識#01【前編】

日本企業の採用はメンバーシップを与えることで、ジョブを買うことにはなっていない。そこにテレワークがなじむのか

――それはどうしてなのでしょうか?

竹井 一言でいえば、日本企業の社員採用とは、メンバーシップを与えることであり、ジョブを買うことではないからです。ジョブ型の雇用とメンバーシップ型の雇用の違いです。

――ジョブ型とメンバーシップ型ということについて、もう少しくわしく教えてください。

竹井 雇用契約には、大きくわけてジョブ型とメンバーシップ型とがあり、アメリカなどではジョブ型が主流です。これは、仕事がきちんとパッケージ化されていてアサインできるようになっていることが前提となり、労働者が提供してくれるジョブに対して、会社は報酬を支払うのだという考え方です。だからたとえば、経理担当者として契約した人に「今日は経理の仕事の手が空くから、ちょっとこの営業用資料を作っておいて」ということは、原則的にはできません。「それは私のジョブではありません」というわけです。報酬は人に対して支払うのではなくて、ジョブに対して支払うので、「この仕事なら時給いくら、月給いくら」という具合に、給与の水準もジョブの内容に応じて定められます。労働者が昇給を望むのなら、その業務でより大きな成果を出すか、あるいは、技術を身に付けたり資格を取ったりして、より高い報酬に対応するジョブを引き受けられるようになる必要があります。雇用契約自体も、ジョブの存在が前提なので、それがなくなれば簡単にレイオフ(一時解雇)ができます。

中小企業のテレワーク導入を考える経営者のリアル意識#01【前編】

社員全員の経験に基づいた集合知が重要なので、会社にいることの価値が高いのです

――メンバーシップ型の雇用とはどういうものなのでしょうか?

竹井 日本企業での新卒採用のようなやり方が、メンバーシップ型です。採用によって、会社というチームのメンバーになる資格を与え、メンバーとして組織のために働いてもらう意味が中心になります。日本の会社員が上述のようなケースで「それは私の仕事ではありません」といって業務を拒否することは、考えにくいでしょう。組織のために役立つという点では同じだからです。いい仕事もあれば嫌な仕事もあるし、忙しいときには残業もあれば、少し暇ならのんびりしているときもある。それらを含めてチームのみんなでうまくやっていこうというのが、メンバーシップ型です。その代わりメンバーシップ型の雇用では、新卒で同一の入社年であれば最初は同じ給与です。そして、成果給が多少は採り入れられていたとしても、基本的には年功あるいはポジションに応じて昇給し、それらが同じなら大きな差はつきません。つまり、組織内でのポジションと給与とが連動しているということです。また、解雇も原則的にはできません。一度メンバーになった人に対しては、ずっと面倒を見ることが会社に義務づけられているともいえます。

――メンバーシップ型の雇用形態は、職人型のテレワークとはなじまないものなのですか。

竹井 私はそう思います。なぜなら、メンバーシップ型の雇用においては、いろいろな職種の業務をやってもらうとか、他の人の仕事を手伝ってもらったりとか、繁忙期にはかなりたくさん残業をして働いてもらったりとか、要はチームの一員としてチームのためにできることはなんでもしてもらうという信頼関係が前提だからです。そうすると、いつも一緒にいるということが、かなり重要な要素になります。オフィスにいなければ、「手が空いているならちょっとこれ手伝って」とはいえないですよね。

逆にいうと、仕事が厳密にパッケージ化されていないということです。だから、会社から一部分の業務を切り出して、そこだけテレワークにするというのは難しいのではないでしょうか。

――日本の企業でも、業種や職種によっては、パッケージ化しやすい仕事があると思いますが。

竹井 たしかに、業種や業態による違いはありますね。私はくわしいわけではないですが、たとえばプログラマの仕事で、一定のプログラムを作るということであれば、作られた一定の成果物に対して一定の報酬を払うというジョブ型でもよいのかもしれません。また、仕様書などがしっかりと定められていれば、作業自体はそのプログラマひとりで完結するかもしれません。そういう業務であれば比較的テレワークになじみやすいでしょう。

――外回りの営業職などについてはどう思われますか? たとえば御社のような不動産業だと、物件の仕入れや販売のための外回り営業が多いのではないかと思いますが、そういう業務なら、自宅から現場や客先への直行直帰をして、報告書は家で書いてメールで送ってもらう、あるいはビデオチャットで報告するといった形でのテレワークも機能するように思えますが。

竹井 製薬会社の営業担当者などでは、そういうスタイルもあるようです。毎日病院を回って、夜は医師の接待をして、出社するのは月に1回、とか。

しかし、不動産はそういうやり方には向いていないですね。よくいわれることですが、不動産の世界ではまったく同じ物件は存在せず、物件の個別性が非常に高いですよね。また、一物件で数千万円から数億円、ときには十億円を超える取引の場合もあり、大きな金額を扱います。そのため、1人の人間が全部を自分だけで決めるのはとても危険なんです。

社内のいろんな人の知識や感覚を寄せ合って、ああでもないこうでもないと議論しながら「これはすぐに進めたほうがいい」とか、 「こっちはやめておいたほうがよさそうだ」などと判断していきます。社員全員の経験に基づいた集合知のようなものが重要なので、会社に一緒にいることの価値が高いのです。営業担当者が外回りしていろんな話を拾ってきて、自分で判断しながら案件を進めて報告だけ上司にメールで送ってOK、といって進めるのはリスクが高すぎると感じます。

たぶん、ソフトウェア開発のような仕事でも、より上流の企画段階から関与する人たちは、やはりフェイス・トゥ・フェイスで顔をつきあわせながらああでもないこうでもないと話しあうミーティングが不可欠なのではないでしょうか。もしかしたら、そういう部分もビデオチャットなどで代用できるのかもしれませんが…。私の感覚が古いのかもしれませんが、やはり集まってお互いの顔を見ながら話し合うことの価値は、ITツールでは代替できないものがあるのではないかと感じます。


編集部 前編では、竹井会長が普段感じられているテレワークとの“距離感”を伺いました。ビジネス環境の変化への対応で柔軟に事業転換をされてこられた背景、グローバルや様々な業界での働き方の分析からの独自の知見を基にしたお考えについて、後編でもう少し掘り下げてお聞きします。

このインタビューは、日本テレワーク協会が 配信している記事 です。

日本テレワーク協会


新型コロナウィルスの流行拡大以降、テレワークや在宅勤務の導入に踏み切る企業が急増している。しかしそれらの多くは、緊急避難的なリスク対策として実施されているものであり、本質的な業務改革を企図したものではないと思われる。感染症の流行によりやむなくテレワークを実施したが、流行が収まればまたもとの勤務形態に戻されるのであれば、テレワークの本質的な活用とは少し趣旨が異なるのかもしれない。

国が掲げる「働き方改革」の内容に示されているように、テレワーク活用の本質は、我が国における「労働力人口減少」と「低い労働生産性」という、相互に関連する2つの問題との関連を抜きには語れない。
だが、それらの問題解決のために本当にテレワークが役に立つのか?とくに、組織のシステムがきっちりと構築されている大企業とは、マネジメントのしかたも働き方も異なる中小企業において、テレワークを導入することが、会社や社員にとって本当に良いことなのか?良いことだとしても、ではどのように導入すればいいのか。

そんな疑問を持つ中小企業経営者は、決して少なくないだろう。企業規模別のテレワーク導入率のデータを見ると、中小企業の導入率が大企業のそれと比べて大幅に低くなっていることにも、中小企業経営者のとまどいが見て取れる。

日本の企業全体における
テレワーク導入率19.1%、従業員5000人以上の企業テレワーク導入率72.6%

だが一方では、トップの決断により会社全体を動かしやすく、組織構造や労働環境の柔軟性が高い中小企業だからこそ、新しい働き方の仕組みを導入しやすいのではないかという考え方もある。

そこで、中小企業を日々陣頭指揮している経営者の方々から、テレワークや働き方改革に対する率直なお考えをお聞きかせいただこうというのが、本連載の企画主旨だ。そこから見える中小企業経営者の“リアルな意識”は、テレワーク導入の可否を検討している経営者や、あるいは広く日本人の働き方について考えている人たちにも、さまざまな示唆を与えてくれるだろう。

株式会社アトリウム 代表取締役会長

プロフィール

竹井 英久

株式会社アトリウム 代表取締役会長

東京都出身。1973年慶應義塾大学経済学部卒業、三井不動産入社。三井不動産ビルマネジメント代表取締役社長や、三井不動産リアルティ代表取締役社長、同社代表取締役会長を経て現職。


発行

一般社団法人日本テレワーク協会 中小企業市場テレワーク部会

企画・聞き手 部会長

小国 幸司(ネクストリード株式会社 代表取締役)

聞き手・執筆

椎原 よしき / 撮影 永井 浩

編集・デザイン

福本 裕之(CoCoII)

協力

中小企業テレワーク部会コアメンバー

中小企業テレワーク部会 アドバイザー

三浦 拓馬(株式会社いわきテレワークセンター)

富士通コミュニケーションサービス株式会社

下田 しおん

株式会社レコモット

大橋 清次

株式会社アトリウム

宮崎 あおな

株式会社イマクリエ

二上 香純

特定非営利活動法人チルドリン徳島

角 香里

コニカミノルタジャパン株式会社

牧野 陽一

SB C&S 株式会社

邑井 一郎

一般社団法人日本テレワーク協会

滝沢 靖子